今週のプロジェクト: WebTorrent
今週は @feross と @dcposch が WebTorrent についてお話しします。WebTorrent は、ユーザーをつなぎ合わせて分配された分散型ブラウザ間ネットワークを形成する、ウェブベースのトレントクライアントです。
WebTorrent とは?
WebTorrent は、ブラウザーで動く初のトレントクライアントです。 全て JavaScript で書かれており、P2P 転送に WebRTC を使用できます。 ブラウザのプラグイン、拡張機能、インストールは不要です。
公開のウェブ標準を使用して、WebTorrent はウェブサイトのユーザーを結び付け、効率的なファイル転送のために分配された分散型ブラウザ間ネットワークを形成します。
WebTorrent の実際のデモは webtorrent.io で見ることができます。
これが凄いと言われるのはなぜですか?
YouTube のようだけれども、訪問者がサイトコンテンツのホストを助けるビデオサイトを想像してください。 WebTorrent で強化されたウェブサイトは、利用者が多いほどより高速で強靭になります。
ブラウザ間通信は仲介者を排除し、人々が各々の条件で通信できます。 クライアント/サーバーは不要です。ピアのネットワークがあれば、みな平等です。 WebTorrent は、ウェブを再分散化する道程の初めの一歩です。
Electron はどこに登場するのですか?
約 1 年前、デスクトップアプリ版 WebTorrent である WebTorrent デスクトップ を作成することにしました。
私たちは、以下の 3 つの理由の下に WebTorrent デスクトップを作りました。
- 簡潔、軽量、広告なしのオープンソーストレントアプリが欲しい
- 優良なストリーミングサポート付きトレントアプリが欲しい
- BitTorrent と WebTorrent ネットワークを繋ぐ "ハイブリッドクライアント" が欲しい
トレントは既にウェブブラウザでダウンロードできるのに、なぜデスクトップアプリなのですか?
初めに、WebTorrent 設計の背景を少しだけお話しましょう。
黎明期の頃、BitTorrent は TCP を転送プロトコルとして使用していました。 その後、TCP よりも優れた性能と更なるメリットを持った uTP が登場しました。 すべての上流トレントクライアントは最終的に uTP を採用し、現在はどちらのプロトコルでも BitTorrent を使用できます。 WebRTC プロトコルは次の必然的な段階です。 すべてのデスクトップ BitTorrent クライアントと数百万のウェブブラウザで構成される 1 つの巨大な P2P ネットワーク — これはウェブブラウザとの相互運用性を保証します。
"ウェブピア" (ウェブブラウザで実行されるトレントピア) は、数百万の新しいピアを追加し、BitTorrent を多数の新しいユースケースに広めることで、BitTorrent ネットワークを強化します。 WebTorrent は、既存の BitTorrent クライアントが WebTorrent サポートを簡単に追加できるように、できるだけ BitTorrent 仕様に準拠しています。
Vuze のような一部のトレントアプリはウェブピアを既にサポートしていますが、他のアプリのサポート追加を待ちたくはありませんでした。 **元来、WebTorrent デスクトップは WebTorrent プロトコルの採用を促進する手段でした。**誰もが使いたくなるような素晴らしいトレントアプリを作成することで、ウェブピア (ウェブサイト上のユーザなど) とトレントを共有できるネットワーク内のピア数を増やすのです。
あまり知られていないような、興味深いトレントの用法はありますか?
WebTorrent の一番すごい用法というと、ピアアシスト配信でしょう。 Wikipedia や インターネットアーカイブ などの非営利プロジェクトは、訪問者にリソースを提供してもらうことで帯域幅とホスティングコストを削減できます。 人気コンテンツは、ブラウザ間で迅速かつ安価に提供できます。 たまにしかアクセスされないコンテンツは、オリジンサーバーから HTTP 経由で確実に提供できます。
インターネットアーカイブはトレントファイルを実際に既に更新しているため、WebTorrent でうまく動作します。 なので、サイトにインターネットアーカイブのコンテンツを埋め込みたい場合でも、トレントでアーカイブのホスティングコストを削減し、アーカイブ側は実際にウェブをアーカイブすることに資金を注げます。
CDN から P2P を介したアプリ配信といった、面白いビジネスユースケースもあります。
WebTorrent を使うお気に入りのプロジェクトはありますか?
WebTorrent で作られた一番すごいものといえば、間違いなく、Gaia 3D Star Map でしょう。 これは、ぬるぬる動く天の川の 3D インタラクティブシミュレーションです。 データはトレントから直接ブラウザに読み込まれます。 銀河系を飛び回り、私たち人間が宇宙の広大さに比べてどれだけ小さいかを実感すると同時に畏敬の念を抱きます。
この作成方法は、著者の Charlie Hoey が WebGL と WebTorrent で天体図を作成した方法を説明しているブログ記事 Torrenting The Galaxy で読むことができます。
また、私たちは Brave の大ファンです。 Brave は、広告とトラッカーを自動的にブロックして、ウェブをより高速で安全にするブラウザです。 最近、Brave はトレントサポートを追加しました。そのため、従来のトレントを外部アプリなしで閲覧 できます。 この機能は WebTorrent で動作しています。
そのため、ほとんどのブラウザーが PDF ファイルを描画できるように、Brave はマグネットリンクとトレントファイルを描画できます。 これらは、ブラウザがネイティブでサポートするただの別種のコンテンツです。
なんと、Brave の共同創設者の 1 人は、WebTorrent の作成に使われた言語 JavaScript の作成者 Brendan Eich です。その Brave が WebTorrent 統合を選んだなんてとてもカッコよくないですか?
Electron で WebTorrent デスクトップを構築することにしたのはなぜですか?
Electron アプリはすべてのアプリに Chrome コンテンツモジュール全体を含むため、"肥大化" していると言われています。 これは、場合によっては部分的に当てはまります (Electron アプリインストーラーは通常 ~40MB ですが、OS 固有のアプリインストーラーでは通常 ~20MB)。
しかし、WebTorrent デスクトップの場合、Electron のほぼすべての機能を使用しますし、通常の操作では何十もの Chrome 機能を使用します。 プラットフォームごとにこれらの機能をゼロから実装していれば、アプリを構築するのに数ヶ月から数年かかるか、単一のプラットフォームでしかリリースできなかったでしょう。
アイデアを実現するため、Electron の Dock 統合 (ダウンロード進捗を表示)、メニューバー統合 (バックグラウンド実行)、プロトコルハンドラーの登録 (マグネットリンクを開く)、powerSaveBlocker (映像再生中のスリープ防止)、自動更新 といった機能を使用しました。 Chrome の機能については、<video>
タグ (多種に渡る動画形式の再生)、<track>
(字幕対応用)、ドラッグアンドドロップ対応、WebRTC (ネイティブアプリでの使用は難しい) など、色々と使用しています。
言うまでもなく、トレントエンジンは多くの Node API が存在することを前提とした JavaScript で記述されています。特に、require('net')
と require('dgram')
によって TCP と UDP ソケットをサポートしています。
まとめると、Electron は私たちが必要としていたもので、堅牢で洗練されたアプリを記録的な速さで配信するために必要で正確な機能群を備えていました。
Electron の好きなところは何ですか?
WebTorrent ライブラリは、オープンソースサイドプロジェクトとして 2 年間開発中です。 **WebTorrent デスクトップは 4 週間で作成しました。**アプリを非常に迅速に構築して配信できたのは Electron であることが主な理由です。
jQuery を使用する世代のフロントエンドプログラマーを Node.js がサーバープログラミングに導いたのと同じで、Electron はウェブや Node.js の開発に精通している人なら誰でもネイティブアプリ開発に手を出せるようにします。 Electron は非常に強力です。
ウェブサイトとデスクトップクライアントはコードを共有していますか?
はい、webtorrent
npm パッケージ は、Node.js、ブラウザ、Electron で動作します。 全く同じコードがすべての環境で実行できる — これが JavaScript の美です。 これが今日の万国共通の実行環境です。 Java Applets は "一度書けば、どこでも動く" アプリを約束しましたが、その理想は多くの理由で実際には実現しませんでした。 Electron は、他のどのプラットフォームよりも、本当にその理想に接近しています。
WebTorrent デスクトップ構築の際に直面した課題はありますか?
アプリの初期版では、UI パフォーマンスの向上に苦労しました。 メインアプリウィンドウを描画するレンダラープロセスと同じ所にトレントエンジンを配置していました。このため、予想どおり、トレントエンジンからの激しい CPU 演算 (ピアから受信したトレントピースの検証など) が発生した場合は常に低速になっていました。
これを修正するため、トレントエンジンを IPC を介して通信する 2 つ目の非表示のレンダラープロセスに移動しました。 こうすれば、そのプロセスが短時間に多くの CPU を使用する場合でも、UI スレッドは影響を受けません。 滑らかなスクロールとアニメーションには非常に満足です。
注釈: WebRTC (レンダラーでのみ使用可能) にアクセスする必要があるため、"メイン" プロセスではなく、レンダラープロセスにトレントエンジンを配置する必要がありました。
Electron はどういった領域で改善されるべきでしょうか?
本番用のアプリを構築して配信する方法や、特にコード署名や自動更新などのトリッキーなテーマについて、より良いドキュメントを望んでいます。 私たちは、ソースコードを研究して Twitter で尋ねてベストプラクティスについて学ぶ必要がありました!
WebTorrent デスクトップは開発終了ですか? それとも、今後何かありますか?
現行の WebTorrent デスクトップは素晴らしいと思いますが、改善の余地は常にあります。 現在、細かい点の修正、パフォーマンス、字幕サポート、映像コーデックサポートの改善に取り組んでいます。
プロジェクトの参加に興味がある場合は、私たちの GitHub ページ を見てください!
他の開発者に役立つ Electron 開発のノウハウはありますか?
WebTorrent デスクトップのコントリビューターの 1 人である Feross は、最近 NodeConf Argentina で "Electron の世界: JavaScript でクロスプラットフォームアプリを構築" という講演を行い、洗練された Electron アプリをリリースするための便利なヒントを紹介しました。 この講演は、あなたが基本的な実用アプリを持っている段階にいて、それを次のレベルの洗練と専門的な領域に昇華させようとしているのであれば非常に役立ちます。
もう一人の WebTorrent のコントリビューターである DC は、アプリを洗練されたネイティブにするための できることのチェックリスト を書きました。 コード例が付いており、macOS Dock 統合、ドラッグアンドドロップ、デスクトップ通知、アプリの読み込みを速くするなどをカバーしています。